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Incident何が起こったか?
前回と今回の処方で、ティーエスワン配合カプセルが土日に休薬指示となっていたことを失念し、残薬が 4 日分の 8 カプセルあるという患者に対して、服薬コンプライアンスを徹底するよう間違った指導をしてしまった。
Prescription処方内容は?
<処方1> 70 歳代後半(性別不明)。胃腸科クリニック。オーダー/印字出力。
ティーエスワン 配合カプセル T20 |
2 Cap | 1 日 2 回 | 朝夕食分 | 14 日分 |
---|---|---|---|---|
(土曜日、日曜日は休薬) | ||||
S・M配合散(1.3g/包) | 3 包 | 1 日 3 回 | 毎食後 | 14 日分 |
エクセラーゼ配合顆粒 | 3.6 g | 1 日 3 回 | 毎食後 | 14 日分 |
図.「ティーエスワン配合カプセル T20」のPTP包装(左)とカプセル(右)。
(大鵬薬品工業のウェブサイトより)
<効能効果>
●ティーエスワン配合カプセル(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)
胃癌、結腸・直腸癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、手術不能又は再発乳癌、膵癌、胆道癌
Historyどのような経緯で起こったか?
患者は、大病院で胃癌の摘出手術を受けた後、近医の胃腸科クリニックを受診していた。前回および今回とも<処方1>の 3 剤が各 14 日分処方されたが、ティーエスワンの服用方法が特殊で「土日は休薬」との指示があった。
今回投薬時に残薬を確認したところ、まだ 4 日分 8 カプセルあまっているとのことだった。薬剤師は、ティーエスワンが土日休薬であることを忘れていたため、服薬コンプライアンスの徹底を患者に強い口調で述べてしまった。しかし、話しているうちに患者の服用方法は間違っていないことが判明し、誤解して間違った指導をしてしまったことを深くお詫びした。
更に、医師の処方日数にも間違いがあり、それを薬剤師は指摘していなかったことも判明した。残薬の処置について医師に相談し、次回来局時に対応することとなった。
Worst scenario最悪の事態
ティーエスワンの過量服用から重大な副作用が惹起する。
Assessment問題点の解析は? 何が問題か?
前回に処方を受けた時点では、併用薬(S・M 配合散、エクセラーゼ配合顆粒)の処方日数(14 日分)から、ティーエスワンの処方日数(14 日分)が適正な服用日数(10 日分)より多いことに気づいていなかった。 今回の処方意図の場合、以下のような処方が適切であったと考えられるが、処方を受けた時点では、医師に確認していなかった。
<処方1>
ティーエスワン 配合カプセル T20 |
2 Cap | 1 日 2 回 | 朝夕食後 | 10 日分 |
---|---|---|---|---|
(土曜日、日曜日は休薬) | ||||
S・M 配合散(1.3g/包) | 3 包 | 1 日 3 回 | 毎食後 | 14 日分 |
エクセラーゼ配合顆粒 | 3.6 g | 1 日 3 回 | 毎食後 | 14 日分 |
ティーエスワンのような抗悪性腫瘍薬は、特に残薬の管理を徹底しなければならないという意識を強く持っていたことと、薬歴や処方をしっかりと確認するのを怠って投薬をしてしまったことが重なり、今回のような指導ミスにつながったと考えられる。
高齢患者であったため、服薬ノンコンプライアンスを起こしやすいという先入観をもってしまった可能性も考えられる。
Plan問題点回避の計画は? 確認ポイントは?
残薬を確認するときには、前回の処方日数や医師の指示も注意深く確認する。残薬がある場合、直ぐにコンプライアンスの徹底を指導するのではなく、用法用量通り飲めなかった理由も患者との会話の中で確認し、適した対策を立てるよう努める。
休薬期間の設定されている処方の場合には、医師の処方日数、用法などの間違いが起こる可能性があることから充分に注意する。
Communication服薬指導は?
『きちんと服用しているのに残薬があったのですね。少々お待ちください。……しばらくして……すみません。休薬日があるのに処方日数が 2 日長くなっていたようです。残薬は回収し、更に返金も致します。申し訳ございませんでした。患者さんの服用の仕方は正しいので、これまで通りにお飲みください。』
Watchword標語は?
休薬期間の設定されている処方は用法、処方日数に注意!
Special instruction特記事項は?
本事例のティーエスワン(TS-1)の 5 日投与 2 日休薬の用法(5 投 2 休法、weekday-on/weekend-off scheduleとよばれる)は承認外の用法である。これまでに本投与法の有効性・安全性に関するエビデンスは確立されていないが、副作用対策等で 5 日投与 2 日休薬を行うことで継続投与が可能であった症例が報告されている。以下に参考として 1 例紹介する。
[症例]手術と術後化学療法で長期生存中の腹膜播種を伴った4型胃癌の 1 例
41 歳、女性。腹膜播種を伴う 4 型胃癌に対し、胃全摘術後 TS-1+PSK (クレスチン)併用療法、TS-1+CDDP(シスプラチン)療法、TS-1+DOC(ドセタキセル)療法などの化学療法を行った。グレード3の全身倦怠感や汎血球減少などで投与中止にいたったが、TS-1+PSK併用療法(TS-1 100 mg/day、PSK 3g/day)において、TS-1 投与法を 5 日投与 2 日休薬、 4 週投与 2 週休薬としたところ、計 34 クール施行が可能であった。TS-1+PSK 併用療法は、投与法を工夫することで副作用を軽減し、長期にわたる投与が可能であると思われた。
(山田貴允ほか. 癌と化学療法. 35(1): 117-119, 2008)