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東大客員教授 澤田先生のリスマネ道場

RISK MANEGAMENT TRAINING ROOM
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2019.02.25 UP
CASE17

ゼローダの処方について病院との連携がとれていなかった

  • 処方チェック
  • 一般調剤
  • 服薬指導
  • その他

Incident何が起こったか?

乳癌の患者にゼローダ錠<カペシタビン>が初処方された。用量(12錠/日)からだけで B法での用量で処方されていると思い投薬したが、後にタキソテール注(ドセタキセル)との併用療法であることが判明した。薬局薬剤師は、病院での処方間違いに気がつかなかった。

Prescription処方内容は?

<処方>
50 歳代の女性。身長:160 cm、体重:60 kg、体表面積:1.62 ㎡
12 月 21 日。病院の外科。オーダ/印字出力

セレコックス錠
100 mg
2 錠 1 日 2 回 朝夕食後 14 日分
ゼローダ錠 300 mg 12 錠 1 日 2 回 朝夕食後 7 日分
ピドキサール錠 20 mg 3 錠 1 日 3 回 毎食後 7 日分
*ただし、翌年の 1 月 4 日から病院へ入院し、その後に服用とのことであった。

図.「ゼローダ錠 300 mg」の包装(左)と錠剤(右)。

<効能効果>
●ゼローダ錠 300(カペシタビン)
  ・手術不能又は再発乳癌
  ・結腸・直腸癌
  ・胃癌

Historyどのような経緯で起こったか?

当該患者は、乳癌が皮膚、骨、肺にまで転移しており、今までも病院内で点滴治療が行われていた。
患者の体表面積から、ゼローダ錠は B 法(特記事項を参照)における投与量だと判断した。また、初回処方の場合には、副作用の発現をチェックするため 7 日分しか処方されないことが多かったので、今回の処方日数が 7 日分であることを奇異に思わなかった。そこで、疑義照会せずにこのまま投薬した。薬は代理の方が取りにこられ、本人はよく分かっているからとの話だった。
患者が入院し、病院薬剤部が患者の処方薬を確認した時に、処方が間違っていたことが発覚した。すなわち、「今回の治療は点滴との併用であり、A 法にも B 法にもあたらない、タキソテール注<ドセタキセル>との併用療法(適応外使用)※」と病院薬剤部から連絡があり、「ゼローダ錠 300 mg 8 錠 1 日 2 回 朝夕食後 7 日分」に処方変更となった。患者の服用前に処方の間違いが発覚したため、治療上、患者の安全上の問題は生じていない。
※本事例においては、カペシタビン・ドセタキセル療法(XT療法)として、「75 mg/m2 のドセタキセルを1日目に投与した後、カペシタビン 1,500 mg/m2/日を分2、連続2週間投与・1週間休薬」が設定されている。

Worst scenario最悪の事態

ゼローダ錠の過量投与から副作用が惹起する。

Assessment問題点の解析は? 何が問題か?

薬局薬剤師は、抗癌剤治療の様々なレジメンに関する知識が不足していた。乳癌治療のレジメンに関する報告(XT療法など)を知らなかった。
また、添付文書のカペシタビンの単独療法の用量のみで判断してしまった。その際、投与日数に乖離があったが、これまでも副作用を観察するために、このような短期処方がよくみられたので、今回もそうだろうと自己判断してしまった。病院の抗癌剤の使用方法について、確認が必要であった。

Plan問題点回避の計画は? 確認ポイントは?

抗癌剤は、添付文書に用法用量が反映されるような確立されたものではなくても、適応外の治療が行われているということを認識しておくべきである。したがって、少しでも疑問のある処方に関しては、疑義照会をすべきである。
また、抗がん剤の処方を応需する可能性のある病院における抗がん剤のレジメンに関して徹底的に学習すべきであり、病院薬剤部との情報交換(いわゆる薬薬連携)も深める必要がある。

Watchword標語は?

・抗癌薬の適応外使用について学ぶ!
・病院で実施される化学療法レジメンを学ぶ!
・薬薬連携の推進!

Special instruction特記事項は?

添付文書上のゼローダの用法及び用量と、カペシタビンとドセタキセルの併用療法の報告を以下に記載する。

1. 添付文書上の用法用量の記載
手術不能又は再発乳癌には A 法又は B 法を使用する。
A 法:体表面積にあわせて次の投与量を朝食後と夕食後 30 分以内に 1 日 2 回、21 日間連日経口投与し、その後 7 日間休薬する。これを 1 コースとして投与を繰り返す(表 1)。

表 1

体表面積 1 回用量
1.31 m2 未満 900 mg
1.31 m2 以上 1.64 m2 未満 1,200 mg
1.64 m2 以上 1,500 mg

B 法:体表面積にあわせて次の投与量を朝食後と夕食後 30 分以内に 1 日 2 回、14 日間連日経口投与し、その後 7 日間休薬する。これを 1 コースとして投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する(表 2)。

表 2

体表面積 1 回用量
1.33 m2 未満 1,500 mg
1.33 m2 以上 1.57 m2 未満 1,800 mg
1.57 m2 以上 1.81 m2 未満 2,100 mg
1.81 m2 以上 2,400 mg

2. カペシタビンとドセタキセルの併用療法
アントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤の治療歴を有する進行・転移性乳癌患者 511 例を対象に、ドセタキセル単剤投与と、ドセタキセルとカペシタビン併用投与を比較した臨床試験が報告されている [文献 1、2)]。
主な評価項目である無増悪期間は、カペシタビン 2,500 mg/m2/日(2 週間投与 1 週間休薬)とドセタキセル 75 mg/m2 併用群(255 例)の 6.1 カ月に対して、ドセタキセル 100 mg/m2 単独群(256 例)では 4.2 カ月であり、ドセタキセルを減量しているにもかかわらず、併用群における有意な延長が示された(ハザード比:0.652)(図 上)。
さらに、全生存率の中央値は併用群で 14.5 カ月に対して、単独群は 11.5 カ月(ハザード比:0.775)、奏効率は併用群で 42% に対して、単独群で 30% であり、併用群が全生存率、奏効率ともに有意に優る結果であった(図 下)。


図 ドセタキセルとカペシタビン併用とドセタキセル単独の比較

(文献 1、2 より引用改変)

参考文献:
1. 山下年成, 岩田広治.:ドセタキセルとの併用療法を推奨する立場から. Cancer Board 乳癌, 2(1): 50-55 (2009)
2. O'Shaughnessy J, et al.: Superior survival with capecitabine plus docetaxel combination therapy in anthracycline-pretreated patients with advanced breast cancer: phase III trial results. J Clin Oncol, 20(12): 2812-2823 (2002)

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