皆さん、こんにちは。今回のタイトルを読んで何か思い浮かびますか?1987年~1993年にかけて連載され、2003年にはテレビドラマにもなった人気漫画「動物のお医者さん」からいただきました。北海道にある獣医学部を舞台としたお話で、獣医師への関心が高まった作品です。同時に、物語中に登場するシベリアンハスキーの人気も高まり、この作品をきっかけにシベリアンハスキーを飼う人が増えたのですが、大型犬を飼育する難しさから途中で手放さざるを得なくなる例もみられ、動物を飼うことへの責任感が議論されることもありました。
動物も怪我をしたり病気にもなる事もあるので、動物のことを熟知した医療体制が必要です。動物のお医者さんたる獣医師の存在は有名ですが、動物が飲む薬はどうなっているのでしょうか。今回は「動物の薬剤師さん」について取り上げたいと思います。
現在の日本では、動物の薬事を専門に取り扱う資格はなく、薬剤師の職能となっています。ほとんどの薬剤師がヒトの医療に携わっているため意識することは稀ですが、法律においても薬剤師が動物の薬を取り扱うこととなっています。薬剤師法第二十三条では「薬剤師は、医師、歯科医師又は『獣医師』の処方せんによらなければ、販売又は授与の目的で調剤してはならない」、「薬剤師は、処方せんに記載された医薬品につき、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は『獣医師』の同意を得た場合を除くほか、これを変更して調剤してはならない」、同じく第二十四条では「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は『獣医師』に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならない」(『 』は筆者加筆)とあり、医師、歯科医師と同じく、獣医師が処方箋を書き薬剤師が処方箋に基づき調剤をすることが原則となっています。ところが、実際には獣医師が処方箋を書き、その処方箋に基づいて薬剤師が動物用の医薬品を調剤することはほとんどありません。これは、医師や歯科医師が患者に薬を渡すためには、「患者又は現にその看護に当たつている者が特にその医師又は歯科医師から薬剤の交付を受けることを希望する旨を申し出た場合」という法律上の条件が付けられていることに対して、獣医師は「自己の処方箋により自ら調剤するとき」はすべて認められることが理由の一つとしてあります(薬剤師法第十九条)。しかしそれ以前に、獣医師が院外処方箋を書いたとして、その処方箋に基づいた調剤に応えられる体制がほとんど存在しないという現実的な問題があります。
このコラムを読んでいる方の多くは、薬剤師、薬学生、あるいは薬学関係者だと思いますが、もし皆さんの所に、動物向けの医薬品が記載された処方箋を持ってこられたらどうしますか?法律的なことを言えば、獣医師が書いた処方箋であれば、薬剤師法第二十一条が求める「調剤の求めに応ずる義務」は発生しますが、どうしたらいいのか分からないというのが本当のところではないでしょうか。メディセレ薬局でも対応は非常に難しいです。
こういった事情もあって動物病院では、基本的にいわゆる「院内調剤」なのですが、実は2020年に動物病院専門の薬局が誕生しています。獣医療においても医薬分業は、既に始まっているのです。獣医療における医薬分業のメリットは、ヒトの医療の場合と同様です。獣医師の負担軽減、選択できる薬の多様化などがあります。加えて、動物、とくにペット(専門的には愛玩動物といいいます)の場合、ヒトに比べて体重が少ないため、粉砕や分割など市販の錠剤やカプセルの加工が多かったり、水剤であっても飲ませる量が少なく方法も特殊であったりと、調剤や服薬指導に専門性が求められることが多くあります。動物専用の薬局では、患者さんの待ち時間軽減、薬の専門家による高度な薬物療法の管理などが期待できるでしょう。
ペットの医療はヒトの医療のように健康保険制度によって支えられた社会インフラではありません。この領域で新たな事業を始めるには、保険診療体制の中で行う一般の薬局とは全く異なる難しさがあります。しかし、保険制度に守られていないからこそ独自の方法を模索することが可能な一面もあります。今回始まった動物専門薬局はICTを活用して動物病院からの依頼スムーズにし、患者の利便性を上げることで開始することができたと聞いています。これからの展開に注目したい領域です。
2022年5月1日には「愛玩動物看護師法」が施行され、動物病院における看護師業務が国家資格化されました。今後、移行期間を経て動物病院で働く看護師さんは国家資格を持つ専門職になります(ヒトの看護師や薬剤師とおなじく業務独占資格です)。獣医療においても専門科が加速しています。多くはありませんが、薬剤師を雇う動物病院も増えてきています。今後、獣医療においても薬剤師の活躍が求められることでしょう。もしかしたら、何年か先には「愛玩動物専門薬剤師」が誕生しているかもしれませんね。
メディセレ薬局 管理薬剤師