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東大客員教授 澤田先生のリスマネ道場

RISK MANEGAMENT
TRAINING ROOM
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2019.05.22 UP
CASE36

《ニューロタン錠、非透析日の減量と勘違い?》

  • 処方チェック
  • 一般調剤
  • 服薬指導
  • その他

Incident何が起こったか?

透析日に間違った減量をしそうになった。

Prescription処方内容は?

<処方1> 60 歳代の男性。診療所の腎臓内科。オーダ/印字出力。

ニューロタン錠 25 mg 2 錠 1 日 1 回 朝食後 14 日分

図.「ニューロタン錠 25 mg」の包装(左)と錠剤(右)。

<効能効果>
●ニューロタン錠 25 mg・50 mg・100 mg(ロサルタンカリウム)
1.高血圧症
2.高血圧及び蛋白尿を伴う 2 型糖尿病における糖尿病性腎症

Historyどのような経緯で起こったか?

診療所の透析室に常駐している看護師より薬局に電話連絡があり、発行された<処方1>に対して「非透析日のみ 1 錠へ減量に変更してください。」と言われた。非常勤の A 薬剤師が電話をうけ、<処方2>のように変更になったと考えた(透析室の看護師に<処方2>のように変更で良いのかの確認はしなかった)。

<処方2> 60 歳代の男性。診療所の腎臓内科。オーダ/印字出力。

ニューロタン錠 25 mg 2 錠 1 日 1 回 朝食後 透析日 6 日分
ニューロタン錠 25 mg 1 錠 1 日 1 回 朝食後 非透析日 8 日分

しかし、鑑査した B 薬剤師が、普通は透析日の方が非透析日に比べて血圧は下がるのではないかと疑問を持ち、再度、診療所へ確認をとったところ、『非透析日のみ 1 錠へ減量』とは、『透析日には中止、非透析日にはニューロタン錠 25 mg 1 錠』とのことであり、最終的に<処方3>へ変更になった。患者には、正しく投薬できたので特に問題はおきていない。

<処方3> 60 歳代の男性。診療所の腎臓内科。オーダ/印字出力。

ニューロタン錠 25 mg 1 錠 1 日 1 回 朝食後 非透析日のみ 8 日分

Worst scenario最悪の事態

透析後に大きく血圧が低下し、ふらつきから転倒する。

Assessment問題点の解析は? 何が問題か?

看護師の最初の連絡内容も不十分であったが、内容から複数のケースが考えられる場合には詳細を確認するべきであった。A 薬剤師はそれを怠り、自分勝手な思い込みで調剤してしまった。
A 薬剤師は、透析時の薬剤の使い方を正しく把握していなかった。

Plan問題点回避の計画は? 確認ポイントは?

不明確な情報を元に調剤は行わない。少しでも疑問があれば疑義照会して、問題を解決してから調剤にかかる。医師、看護師から処方変更の指示があれば、「このように変えますがOKですか?」のように具体的な変更をオウム返しで確認する。
自分の知識に不確かな部分がある可能性を常に認識する必要がある。透析患者の処方箋を受けているかぎり、透析時の薬剤の使い方の注意点を正しく把握しておくべきである。
医師、看護師は、薬剤師に対して処方変更を提案する場合は、明確に指示する。例えば、今回のケースでは『透析日にはニューロタン錠 25 mg は中止して、非透析日には 1 錠にしてください。』となる。

Watchword標語は?

・医師、看護師から処方変更の指示があれば、変更内容をオウム返し!
・処方に不明確な部分があれば疑義照会して、問題解決してから調剤!
・透析患者の薬物療法について研鑽!

Special instruction特記事項は?

透析患者における血圧管理についてのステートメント 1)
●透析患者における血圧は、透析室における血圧のみならず家庭血圧を含めて評価すべきである。
●心機能低下がない、安定した慢性維持透析患者における降圧目標値は、週初めの透析前血圧で 140/90 mmHg 未満とする。
●目標血圧の達成にはドライウェイト(DW*)の適正な設定が最も重要である。
●DW の達成/維持後も降圧が不十分な場合に降圧薬を投与する。
*:ドライウェイト(DW)は「体液量が適正で、透析中に過度の血圧低下を生ずることなく、かつ長期的にも心血管系への負担が少ない体重」と定義する。

高血圧治療の実際 1)
透析患者における高血圧治療の実際を図1のようなアルゴリズムで示す。

図1.透析患者における高血圧治療のアルゴリズム 1)

高血圧治療には必要量の透析が確保されていること(適正透析)が前提条件で、透析時間、回数、血液流量、透析膜などの透析条件を再考すべきである。その上で DW の適切な設定・達成・維持をめざすべきである。それでも降圧が得られない場合に降圧薬を投与することになる。逆に、透析中に高度の血圧低下が発生し、降圧薬の影響が考えられる場合には、降圧薬の減量・中止を考慮し、DW を再度設定し直して経過観察した後に適切な降圧薬を選択すべきである。

降圧薬の選択 1)
適切な DW を設定し、それが達成されても降圧が得られない場合に降圧薬投与を考慮する。透析患者における降圧薬選択についてのエビデンスは乏しいが、非透析例で得られた成績を参考にして適用することになる。血圧の評価は、1 週間単位で、家庭血圧も参考にし、降圧薬を透析日は投与しないなど画一的な指導に終わらず工夫し、1 週間にわたって血圧管理が良好に行われることをめざす。降圧薬の選択にあたっては、心肥大抑制など臓器保護効果があることを優先する、作用時間の長短を組み合わせる、透析性と血圧変動を考慮して服薬時間を決定する、透析後に服薬する場合には帰宅後、家庭において降圧が過度に陥る危険性があることに注意する、など留意すべきである。また、降圧が不十分な場合、患者が服薬していない可能性も考慮しなければならない。
アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)やアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE 阻害薬)などのレニン・アンジオテンシン阻害薬は左室肥大抑制効果など心血管系保護効果が明らかで、透析患者についても第一選択薬となる降圧薬である。とくに、ARB は胆汁排泄が主体で、透析性もなく、咳嗽などの副作用もないので投与しやすい。しかしながら、ARB には左室肥大抑制効果はあっても心血管イベント発症を有意に抑制していないとの報告もあり、厳密には今後も大規模な検討が必要である。β遮断薬は、心筋梗塞の既往例や有意な冠動脈疾患を有する例で積極的な適応となる。DOPPS 研究では、β遮断薬使用群の生存率が最も良好であったと報告されている。カルシウム拮抗薬の投与も奨められる。いくつかの前向き観察研究で、全死亡や心血管障害死亡を有意に減少させた。透析患者では交感神経活性の亢進も存在し、以上の降圧薬で管理できない場合に中枢性交感神経作動薬やα遮断薬も考慮される。しかし、起立性低血圧など、副作用も多いことから 2 次的選択薬となる。

透析患者の高血圧治療のポイント 2)
① 心機能の明らかな低下がないかの確認。ないことが前提で週初めの透析開始時で 140/90 mmHg 未満を目標とする。透析後はこの値より下がっている必要があるが、透析中に急な血圧低下がないことが重要である。
② DW を適正に維持する。明らかな胸水やうっ血がないことが重要であり、徐々に除水する。心胸郭比 (CTR) 50% 未満を目標とするが、迷う場合は、hANP などを併用して決定する。
③ DW を適正に設定してもなお血圧高値を認める場合は、RAS 阻害薬を開始しそれでも適正血圧に維持困難な場合はカルシウム拮抗薬やβ遮断薬を追加する。
④ 決定や変更の際には立位血圧値を確認することが望ましい。特に糖尿病性自律神経障害がある患者の場合は、慎重に降圧管理を行う必要がある。

引用文献:
1)「血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン」、
  社団法人日本透析医学会、透析会誌、44:337-425 (2011)
2)「CKD・透析関連領域におけるガイドラインを日常診療にどう生かすか
  “2. 透析患者の高血圧はどう評価し、治療するか?”」、
  臨床透析、28:965-971 (2012)

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