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メディセレ薬局 現場からの声

アスリートとドーピングとスポーツファーマシスト

 皆さん、こんにちは。今回はスポーツの秋にちなんで、スポーツ競技とお薬の話をしようと思います。スポーツ競技とお薬といえば、いつも話題になるのがドーピング問題です。フェアでクリーンな競技を行うためには不正薬物の使用を禁止することは当然ですが、ドーピングに関する規定は細かく、複雑かつ厳格で、ドーピング規制薬物については、選手も処方する医師も、調剤する薬剤師も知らないことが多いというのが実情だと思います。
 足を速くしたり、筋肉を増強したり、といった特殊な薬物がドーピングで規制されるイメージがあるかもしれません。しかし、薬局やドラッグストアで販売され、多くの患者さんが常日頃から服用している、ごくごく普通のお薬も規制されています。例えば、鼻炎薬、のど飴、育毛剤などのお薬が、競技によってはドーピングに該当してしまう場合もあります。その数は数百種類にもおよびます。
 そんなに多くの種類があるドーピング規制薬物ですが、どのレベルの大会で適用されるか知っていますか?オリンピック・パラリンピックのような国際大会は当たり前ですが、国内で行われる中高生の都道府県大会もドーピング規制の対象となっています。実際に、大会直前に体調を崩した中高生が、市販薬を購入して服用した結果、ドーピング検査に引っかかり失格になってしまった、という不幸が起こっています。

 先日、メディセレ薬局に来られた患者さんから、「スポーツをしていて今度大会に出るんですけど、この薬はドーピング大丈夫ですか?」と質問を受けました。質問を受けて、一気に緊張が走りました。ここで間違えたことを伝えてしまうと、その方のスポーツ選手としての人生を台無しにしてしまうかもしれません。あるいは、ドーピング上問題ないのに「やめておいた方がいいですよ」と伝えて、十分な治療効果を得ることができず、体調不良のまま大会に出ることになってしまったら、おそらく実力が発揮できないでしょう。世界アンチ・ドーピング機構(WADA)から出されている「禁止表国際基準」の知識をもとに成分から考えると、大丈夫だろうとは思いましたが、あやふやな知識で「大丈夫ですよ」ということはせず、きちんと調べたうえでご連絡をするので、それまでは使用せずに待ってもらうように伝えて、お薬をお渡ししました。
 ドーピング規制薬物は、WADAおよびその日本での機関である日本アンチ・ドーピング機構(JADA)から一覧を入手することができますが、競技や主催団体によって異なることがあります。30ページを超える「2024禁止表国際基準」を調べても、見落としや勘違いがあるかもしれません。同じ状況に置かれた薬剤師なら、誰かの助力がほしい、と思うのが正直なところだと思います。
 そこで頼ったのが薬剤師会アンチ・ドーピングホットラインです。医薬品を使う方の性別や年齢、競技や主催団体、使用予定の医薬品の名称を記載して送ると、公認スポーツファーマシストが使用の可否についてコメントをしてくれます。公認スポーツファーマシストは、アンチ・ドーピング規則を中心に、広くスポーツと関係する内容の課程を修了した、医療に係る最新のアンチ・ドーピング規則に関する知識を有した薬剤師です。また、スポーツ(近年盛んになっているe-スポーツも含みます)に取り組む方々への教育も行っています。公認スポーツファーマシストからの回答をもらい、自信をもって「使って大丈夫ですよ」と、患者さんに伝えることができました。
 スポーツに取り組む方は、お薬の処方を受けたり、購入したりする際には、必ず「この薬はドーピング規制で問題ありませんか?」と自分から尋ねることが重要です。一方で、相談を受けた薬剤師は、手渡す医薬品がドーピング規制に該当しないかどうか、責任をもって伝える必要があります。ドーピング規制薬物に関する情報を提供するシステムを活用して、様々な病気を抱えながらスポーツに取り組む患者さんを支援できればと思います。

 さて今年は、パリでのオリンピック・パラリンピックが開催され、盛況のうちに幕を下ろしました。日本は金メダルが18個、総メダル数が43個という結果を残し、これは海外で開かれたオリンピックとしては過去最多の記録になりました。その裏では、ドーピングを取り締まる方がいて、選手が服用する薬を管理する方がいて、厳しいドーピング検査を乗り越えた選手がいることにも、思いを巡らせていただければと思います。

メディセレ薬局 管理薬剤師

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