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メディセレ薬局 現場からの声

選定療養としての先発医薬品の選択

 皆さん、こんにちは。既にテレビなどでもいろいろ伝えられていますが、「先発医薬品とジェネリック医薬品の価格差の一部を保険適用外にし、患者負担とする」という制度が10月から実施されます。このコラムの読者の多くは薬剤師もしくは薬学生だと思いますので、用語に関して詳細な説明は必要ないと思いますが、「選定療養」という話題ばかりが先行して、本来の意味を離れて用語が用いられるようになってしまった感じもするので、一度整理したいと思います。
 日本の医療制度は国民皆保険制度に基づいた保険診療によって行われることとなっています。保険を使わず全額自己負担で行う自由診療も選択が可能ですが、これらを併用する混合診療は原則禁止されています。保険が認められない治療が含まれる場合、全ての治療が保険適用外になるというのが基本です。しかし、厚生労働大臣の定める療養については、保険適用外の診療を受ける場合でも、保険診療との併用が認められているものがあります。この場合、通常の保険診療と共通する部分(例えば一般的な診察・検査・投薬・入院料など)は、保険診療として扱われ、保険診療とならない部分については患者が全額の負担を行うことになります。この保険診療とならない療養のうち、「患者が自らの意思、希望により選んだ療養」を「選定療養」といいます。患者が選んだから「選定」と呼ばれています。
 選定療養には様々なものがありますが、有名なものでは、入院時に個室を希望した場合に個室料金がかかるというものがあります。これは「差額ベッド代」として広く知られています。「快適性、利便性」に係わる選定療養といわれています。また、大きな病院に紹介状を持たずに受診をした場合、1万円前後(病院によって異なります)の追加費用がかかります。「医療機関の選択」に係わる選定療養です。このほか、予約診療における予約代、規定回数以上のリハビリ、診療時間外の診察(緊急でやむを得ない場合は保険適用)、審美性の高い歯科での補綴などがあります。医療上必要ではないけど、患者本人が希望する場合は追加料金を払って受けることが認められている療養です。
 
 10月から「一部の先発医薬品の使用」が、選定療養となります。医薬品には先発医薬品とジェネリック医薬品があり、国はジェネリック医薬品の使用を進めています。その甲斐もあって、「先発医薬品」「ジェネリック医薬品」の概念は、市民の皆様にも広く浸透してきました。薬局の窓口でもジェネリック医薬品について、いちから説明をすることもほとんどなくなりました。ジェネリック医薬品の効果は先発医薬品と同等であることが国によって認められています。従って、敢えて先発医薬品を使用する医療上の理由はない、ということになります。しかし、理由がないのは「医療上の理由」であって、「先発医薬品の方が安心なので先発医薬品がいい」という患者本人の「心理的な理由」はなくなりません。そこで、患者本人が「希望して先発医薬品を選ぶ」ことを選定療養の一つとして位置づけ、追加料金を患者に求めることになるのが今回の制度の基本となります。
 ただし、必ずしもすべての先発医薬品が選定療養の対象となるわけではありません。ジェネリック医薬品のない先発医薬品はもちろん、ジェネリック医薬品が普及していないものも対象外となります(ジェネリック医薬品の使用が普及している先発医薬品のことを「長期収載品」とよびます)。加えて、薬局が対応するジェネリック医薬品が提供できない場合、医師が先発医薬品の使用が医療上必要だと認めた場合などは、従来通り先発医薬品の薬価全てが保険対象となります。
 
 希望して先発医薬品を選んだ場合の選定療養に係る費用は「先発医薬品と最も高いジェネリック医薬品の差額の25%」となります。非常にややこしいので、図を参照してください。図ではジェネリック医薬品の薬価が100円、先発医薬品の薬価が200円を例に挙げています。差額100円の25%である25円が選定療養費として患者負担となります。先発医薬品の薬価200円からこの25円を引いた175円が保険対象となります。一般的な3割負担の患者であれば、保険における自己負担額は52円となります。患者がこの先発医薬品を選んだ場合の合計自己負担額は1錠あたり25+52で77円となります。これまでは、先発医薬品の薬価200円の3割で60円だったので17円の負担増となります。これは1錠当たりなので、1日1回1錠の薬が30日処方された場合であれば、510円の負担増となります。非常に複雑な計算ですよね?薬局スタッフの目の前の不安は、患者さんに「じゃあ、いくら高くなるの?」と聞かれた時に、簡単には答えられないことです(苦笑)。
 
 この金額が高いと考えるか、妥当だと考えるかは、それぞれの立場や価値観、この国の社会保障制度に対する思いなどによって異なりますが、長期収載品の使用に対する選定療養の開始により、ジェネリック医薬品の選択が加速すると予想されます。社会保障費の増大が続いており、国の方針として、ジェネリック医薬品の使用が進められていることは先に述べた通りです。ですが、先発医薬品の使用を抑制し、ジェネリック医薬品の使用をさらに進めていくことは、長い目で見た場合、この国の医療にどのような影響をもたらすでしょうか。以前のコラムでもお伝えしましたが、医薬品の開発、製造、供給というのは、非常に大きな工業製品の製造管理のシステムの中でなされています。単純に、社会保障費の削減だけで考えずに、製造管理や患者不安など、様々な視点で考えたい話題だと思います。

メディセレ薬局 管理薬剤師

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