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メディセレ薬局 現場からの声

熱中症の水分補給

 皆さん、こんにちは。このコラムが出るころはお盆も近くなので、誰もがひどい暑さに辟易していることと思います。執筆をしている時点でも、熱中症で死亡者が出たという報道も出ています。自分は大丈夫だ、とは思わずに対策をするようにしてください。そして、周りの人たちにも、ぜひ声掛けをしてください。

 さて、この熱中症に関してSNSで少し前の論文が話題になっていたので、今回はその内容について一緒に考えてみたいと思います。その論文は、Effect of fluid replacement with green tea on body fluid balance and renal responses under mild thermal hypohydration: a randomized crossover study (PMID: 37594507 DOI: 10.1007/s00394-023-03236-3)です。

 熱中症予防の第1は暑さを避けることです。暑い日は屋外を避け、屋内・日陰に移動することはもちろんですが、屋内であっても積極的にエアコンを使用して快適な温度・湿度を保つようにしてください。28℃を超えると熱中症のリスクが高まります。エアコンの温度設定を28℃にしても、部屋の温度が28℃とは限りません。感覚的な暑い、暑くないで判断するのではなく、職場や自室など長時間滞在する部屋には、簡単なものでよいので温度計を置いて判断するようにしてください。
 もう1つの大切なことは水分補給です。こまめに水分を補給しましょう。のどが渇いていなくてもこまめに水分を補給すること、大量に汗をかいた後は塩分も補給することが重要です。気を付けていただきたいのは、汗をかいているという自覚がない時。汗をかいていなくても、気温が高くなると確実に体から水分が奪われています。

ところで皆さんは、熱中症対策の水分補給にはどんな飲み物がよいと考えますか?水、スポーツドリンク、お茶、経口補水液などなど、最近ではいろいろな飲み物を比較的簡単に手に入れることができます。その中で、緑茶やコーヒーなどのカフェインを多く含むと言われている飲み物は、カフェインの利尿作用によって水分の排出が促されるため、水分補給の目的で飲むにはあまり推奨されないということが言われたりしています。一部の記事では、「飲んだ分以上の水分が尿として排出されてしまう場合もあるので避けること」などと書かれていたりします。果たしてこれは本当なのでしょうか。
 
前置きが長くなりましたが、今回紹介する論文は、そのことを明らかにするための実験に関する内容です。被験者は20分間の完結的なステップを上り下りする運動と10分間の休憩を3回繰り返し軽い脱水状態を誘発したのちに、運動により失われた体液量に等しい量の水、緑茶またはカフェイン入りの水(20mg/100mL)を摂取し、体液摂取後2時間の尿や体液バランスを測定し、飲んだものによってどのような差が出るかということを検証したものです。
この研究では、運動による脱水状態の誘発で体重の約1%の水分が失われた後、緑茶またはカフェイン入りの水のいずれを摂取した場合でも体液のバランスは回復し、尿量、尿浸透圧、浸透圧活性物質(ナトリウム、カリウム、塩化物)の尿中排泄量に差はみられなかったという結果が得られ、緑茶やカフェインを含む水は軽度の低水分症からの水分収支の回復に有効であると結論付けています。

 ではここで、この論文を批判的に吟味してみたいと思います。脱水症状からの回復にカフェインを含む水分を補給しても問題ないのでしょうか?この論文の研究手法でもっとも気になるのは、被験者の数(いわゆるn数)が12名ないし13名ということです。十数人という数が必ずしもだめだというわけではありません。しかし、この論文の主旨は、「水もカフェイン入りの飲み物も『その効果は変わらない』」というところです。統計学的有意差の指標となるp値は基本的には、n数が多いほど小さくなりやすい傾向があります。従って、少ないn数で行う実験ではp値が小さくなりにくく、「差が認められない」という結論になりやすいです。さらにここで重要なのが、「差が認められない」ということと「差がない」ということは全く異なるということです。提示した図(論文のデータを基に筆者が作成)をよく見ると、尿中のNa+やK+、Cl-の排泄率などの値は、水とカフェインを含む飲料とで差があるような傾向もみて取れます。今回の実験のデータでは、これらに統計学的な有意差は認められなかったかもしれませんが、n数を増やせば差が認められるかもしれません。
 一方で、軽度の脱水症状において短時間的に体から失われた水分の回復には、水でもカフェインを含む飲料でも有効だということも示されています。であれば、水やカフェインを含む飲料を飲むことは、熱中症の予防として有効だと考えても大きな支障はないと思われます。何も飲まないよりは、好きな飲み物を積極的に飲んだ方がいいという事は間違いないでしょう。ただし、これはあくまで予防や「軽度」の脱水症状でのお話です。熱中症としての症状を自覚する段階なら、経口補水液などを摂取することが望ましいです。

 ニュースや記事などでは、論文に書かれた結果の良いところだけが過大に報じられることが多々あります。しかし研究とはその方法やデータの内容によって、実際の医療や生活に適用できる範囲や解釈が異なります。皆さんも、気になる成果を見かけたときは、必ず元の論文を確認して「解釈の適切な範囲」を考えるようにしてほしいと思います。

メディセレ薬局 管理薬剤師

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