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メディセレ薬局 現場からの声

ヒトのお薬、動物のお薬

 皆さん、こんにちは。前回は「動物の薬剤師さん」について書かせていただきました。薬剤師の新しい活躍の場として、獣医療の可能性が見えてきたというのは大変興味深いことだと思います。今回は、もう少し獣医療のお話、それも動物のお薬の話をしてみたいと思います。ペットを飼っている方は動物病院のお世話になったこともあるかと思います。動物病院ではペットに対して、ヒトと同じように診察をして検査をして、必要があれば薬を出します。職業柄、どうしても我が家のペットに出された薬が何か気になってしまいます。多くの動物用の医薬品はヒト用の医薬品の流用ないし同じ成分のものが使われているので、「あー、あの薬かー」という妙な納得や安心を得ることができたりします。余談ですが、ペットの薬がヒトの薬と同じ成分なのをみると、同じタンパク質をもっていて同じ生化学的なメカニズムで生きているんだなと感じることができて、進化上の繋がりを感じたりします。

 このようにヒトとペットの薬が同じものである事は多くありますが、近年では動物専用の医薬品も多く開発されています。動物病院でもらった薬が知らない薬で、あわてて調べたりしたことも何度かありました。具体的な根拠があったわけではないのですが、ヒト用の医薬品の研究開発が一番行われており、最も実用も進んでいるのだろうと思っていた時期がありました。ところが必ずしもそうではないということ知ることになった出来事をお話したいと思います。

 ヒト用のアトピー性皮膚炎の治療薬にヤヌスキナーゼ阻害薬(JAK阻害薬)があり、代表的なものに塗り薬のコレクチム®(デルゴシチニブ)があります。デルゴシチニブは2020年に発売された世界で初めてのJAK阻害薬によるアトピー性皮膚炎の治療薬です。関節リウマチや潰瘍性大腸炎の治療薬として使用されていたJAK阻害薬が、アトピー性皮膚炎の治療薬として応用されました。JAK阻害薬が関節リウマチ治療薬として初めて認められたのは2013年のゼルヤンツ®(トファシチニブ)ですので、そこからアトピー性皮膚炎への応用に7年かかったことになります。
 一方、犬用のアトピー性皮膚炎の治療薬として、2016年にアポキル®(オクラシチニブ)というJAK阻害薬が承認されています。ヒト用のアトピー性皮膚炎の治療薬がでる4年も前のことで、動物用の方がヒト用より臨床適用が早いという一例です。私がアポキル®(オクラシチニブ)を初めて知ったのは、コレクチム®(デルゴシチニブ)の発売よりもかなり前で、獣医療の領域では既にJAK阻害薬がアトピー性皮膚炎の治療薬として提供されていることに大きな驚きを覚えました。
 その後、後を追いかけるように、コレクチム®(デルゴシチニブ)が発売され、ヒトの医療にもJAK阻害薬がアトピー性皮膚炎の治療に用いられるようになり、今では塗り薬のみならず、オルミエント®(パリシチニブ)やサイバインコ®(アブロシチニブ)といった経口薬も発売されるに至りました。

 ご存じのとおりヒト用医薬品の研究開発や製造に関して、GCPやGMPといった非常に厳しいルールが課せられています。もちろん、動物用医薬品における研究開発や製造に関しても厳しいルールが定められています(日本において、ヒト用医薬品も動物用医薬品も医薬品医療機器等法で規制されていますが、所轄は厚生労働省と農林水産省に分かれています)。
医薬品の安全と品質が保たれているのはこれらのルールの存在と、これらのルールを定めた精神を尊重しながら、日々遵守に努める医薬品関係者の皆様のおかげです。しかしながら、厳しいルールは医薬品の研究開発のハードルを上げ、自由度を下げることにもつながります。筆者の想像も入ってきますが、人のデータ、動物のデータを双方が活用することで、より効率的で効果的な医薬品開発につなげようという動きがあるのは当然かもしれません。ヒト用、動物用どちらか先に進めそうな方が先に進み、医薬品全体が発展していくことは双方にとってメリットがあるからです。

 例えば、老齢に入ったネコは高い確率で慢性腎不全を発症するため、ネコのQOLにとっては腎不全の治療が大きな問題となります。ネコの腎不全治療に関するクラウドファンディングが一時話題になったのでご存じの方もいるかもしれませんが、ネコの腎不全の治療では、ラプロス®(ベラプロスト)という経口プロスタサイクリン(PGI2)が、既に治療薬として実用化されています。一方、ヒトの腎不全治療薬としてプロスタサイクリンを改善する可能性は示唆されていますが、いまだ研究段階で医薬品として実用に至ってはいません。これはニーズの高い領域の開発が早く進むという一例といえるかもしれません。ネコでの知見がそのままヒトに適用できるわけではありありませんが、ネコの治療に関するデータがヒトの腎不全治療薬に大きな影響を与える可能性は十分にあります。

 このように、動物用医薬品の現状から今後のヒト用医薬品の動向をうかがい知ることもできます。動物用医薬品について調べたり学んだりする余裕はなかなかないかもしれませんが、ご自身や友達のペットが処方されたお薬について深く調べてみることは、ヒトの薬の範囲からは得られない学びが隠れているかもしれません。

メディセレ薬局 管理薬剤師

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